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2022年度 茨城県立高校入試を受けて

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衝撃的な転換をした高校入試

 2022年3月3日に行われた茨城県立高校の入試問題について今回はお話します。
茨城県立高校の入試問題は2019年度入試まで10年以上形式が変わらないまま維持されてきました。しかし2020年度入試から、数学での計算だけの問題を廃止、作図問題の設定、理科・特に社会での記述問題増加、英語の長文の必要単語数増加などの変化がみられ、新しい形式が定着しないまま2年経過していました。昨年度(2021年度入試)は英語が英作文(30~60語)の他に英文を作成する設問が3か所、社会の記述問題が20か所あるなど記述偏重とも言うべき状態でした。
 私たち慶伸塾も含め、塾業界ではこの増加した記述問題に対処すべく、記述問題を集めた問題集を授業で扱うなど対策を進めてきました。慶伸塾では個別指導の生徒の陥りがちな、試験形式演習量の不足という弱点を補うべく、例年1~2月に5週にわたり、土曜日の午前9時から午後5時まで「公立高校入試対策講座」を実施していました。5科目の模擬問題を実際の入試と同じように実施し、終了した科目から採点し、不正解者の多い問題を中心に解説をするという講座です。模擬問題の選定にはかなりこだわっており、実際の入試問題に近い形式のものを用意することに腐心しております。

 しかし、2022年3月3日に執り行われた茨城県立高校入試では衝撃的な転換が見られました。それは「入試問題からの記述問題の廃絶」です。あれほど準備をし、添削を繰り返し、県立高校入試対策講座でもポイントを説明した記述問題が一切ないのです。受験生の保護者から一報を受けた私は自分の耳を疑いましたが、一方で「そうきたか」という思いもありました。

大きな影響を与えた採点ミス問題

2021年度入試において、県立牛久栄進高校を受験した生徒の保護者が答案用紙の開示請求をしたため、確認したところ2か所の採点ミスがありました。その内容というのが、丸がついた問題に対し加点(5点)されておらず、結果として不合格が取り消され、合格になったということがありました。さらに全県で再調査をしたところ県立高校93校中53校でのべ408件の採点ミスが見つかったというニュースまで流れました。もちろん、採点ミスそのものは有ってはならないことですが、なぜこのようなことが起こったのかを検証し、再発を防ぐことが重要です。
 
 こちらに関しては高校の先生方の反応も出ています。2021年4月の茨城県高等学校教職員組合機関紙からは「採点ミスを現場のせいにしないでほしい」、「採点ミスが起こらないような仕組みづくりを求める」といった内容があります。採点ミスに関しては関係者の処分ということで1155人が処分を受けています。これは全教職員の3割にあたる人数だそうです。異常な数値だと思います。3割の職員が処分されるということは個人個人の問題ではないということではないでしょうか。その後教員の働き方改革という面も含めて改善策が議論されていました。私としては記述問題の減少や、高校を休校日として在校生の登校を止め、採点に集中できる日を設けるなどの改善がなされるのではと予想していました。しかし、入試問題から記述問題を無くすという今までの流れを完全に断ち切るような結果となりました。

予兆はあった

まったく予兆が無かったわけではありません。私自身、後から気付いたため、偉そうなことは言えませんが、2022年1月に実施された茨城県立中等教育学校の適性検査にその予兆とも言うべき特徴が表れています。公立中高一貫校の適性検査はそれこそ思考力や記述力などの表現力が問われるものですが、今回の適性検査からは記述がほとんど排除されています。理系内容を扱う適性検査Ⅰでは記号選択式になり、「途中の考え方を式やことば、図で説明しなさい」といった問題文が見られなくなりました。文型内容の適性検査Ⅱも設問中の会話文に当てはまる内容を20~30語程度で記述する問題1問と「津波が発生するおそれがあるときは、直ちに高台へ避難してください。」をやさしい日本語に直させるという1問のみで、そのほかは全て記号選択式の設問になりました。

何のための入試改革か

2022年度入試からの入試問題に見られた変革は、変わりゆく大学入試を念頭に置いたものだと考えられます。結局見送りとなった共通テストへの記述問題の導入の議論をもとに、詰め込み式教育からの脱却を目指し、表現力や思考力を問う問題へと移行してきました。
その変化そのものは否定されるような内容ではなかったと思います。しかし、事前通告の無い入試問題の急激な変質は誰しもに平等とは言えません。入試問題に変化が必要であるならば、その変化が緩やかなものであることを望みます。
 入試において2019年度までも英語・国語はもちろん、理科や社会においても理由を問う記述問題は3題程度出題されていました。その程度の出題数ならば、採点ミスも起こりにくく適切な問題量だったのではないでしょうか。また、英作文の必要な語数を2割程度増やすなどは、英語の教科書改訂の背景を見れば理解できる範囲の変革だと思います。
 2020年度、2021年度と性急に入試問題の文字数を増やし、記述問題を覆は大幅に増加させ、一方で教職員の働き方改革には手を付けなかった結果が、採点ミス問題として露見したのではないでしょうか。
 
 2022年度入試から記述問題がなくなったのは単に「採点ミスを無くす」という点を第一に考えて入試問題を変えた結果です。ここには、採点ミスがあると調査・関係者の処分・改善策の立案・実行といったプロセスが必要になるから、ミスが起こらないような体制を作ればよいという事なかれ主義が強く透けて見えます。さらに合格者に至るまで答案の写しを渡す用意があるというところに「ミスがありません!」という強いメッセージ性を感じます。
ある県立高校の先生は「しっかりと入試に向けた準備した生徒がかわいそうだ」と言われたとか。私も同感です。そんなに採点ミスを無くしたいのであれは、もう旧センター試験のように、マーク式でよいのではないかとさえ考えてしまいます。本来の「受験生の思考力・表現力を測る」という視点はどこにいったのでしょうか。

記号選択式の弊害

記号選択式の入試問題に切り替わったということは、「まぐれで当たる問題がある程度の数存在する」ということです。よって生徒の学力差を正確に測ることはできなくなります。もちろん、すべてが記号というわけではありません。国語では漢字の読みのみひらがなによる自由記述です。英語は一部の空欄にあてはまる英単語を書かなければなりません(13問=23点)。社会も用語を答える問題(2問=6点)もあります。しかし、この問題数は全体(100点)から見れば少ないと言わざるを得ません。文型科目である国語・社会・英語では点数差が付きにくくなってしまうのです。一方で理系科目は、計算結果を数字で答えなければならず、まぐれで正解ということ自体が非常に難しいのです。結果として理系科目では差が付きやすくなるのです。つまり、単純に理系科目が得意な生徒が有利ということが言えそうです。これが意図されたことなのかどうかわかりませんが、平等とは言えません。
 因みに、2019年度入試までも記述問題は存在していました。たどれる限りたどってみましたが、遅くとも平成15年度(2003年度)入試から2019年度入試までは、ほぼ入試傾向や出題内容を変えずに作問が行われていました。私はこの長らく続いた形式でよかったのではないかと思います。2020年度入試から急激に記述問題を増やした一方で、採点にかける十分な時間や人員を確保しなかったことで採点ミスにつながったのです。
 
 ここで関東地方の他の都県の状況も見てみましょう。
茨城県でいうところの2020年度、2021年度の形式である、記述メインの出題形式をとっている県が、千葉県、栃木県、群馬県の3県です。2022年度の茨城県に似た記号選択式をメインとする出題形式をとっているのが、神奈川県です。ここに新たに茨城県が加わりました。また、記述問題、記号選択の両方の要素残しているのが東京都です。東京都において、難関校は英語・数学・国語で独自問題を設定しています。もちろんその内容は記述問題がメインです。同じ関東地方でも都県によって出題傾向が割れていることがわかります。

誰のための入試か

ここで、そもそも入試は誰のためのものなのかを考えてみましょう。それはもちろん高校に進学を希望する生徒たちのためのものです。今回の改革にはこの点が抜けていると言わざるを得ません。高校に入学するための関門である高校入試の問題は、学力をなるべく正確に測定するものさしであるべきです。今回は事前通告なしに、と言っても入試はいつも事前通告がないものですが、大幅に出題内容や形式が転換されました。これからも転換されないとはもちろん限りません。しかし、まっとうな受験生であればあるほど、過去問を遡ったり、他の都県の入試問題に取り組んだりします。そういった真面目に取り組んでいる受験生を結果的にでも裏切るような入試制度改革には私は反対です。
 一度、このように記号選択式、記述無しといった極端な形式に変えた茨城県立高校入試は、今後どのように変わっていくのでしょうか、変わらないのでしょうか。私は、一度この形に変えてしまうと、戻すことも難しいと感じます。なぜなら、採点ミスを起こさないという点にこだわる限り、記号を書くのかマークシートを塗るのかという点くらいしか変えようがないように思われるからです。また、「どれにしようかな」という形で解答をできる問題がこれほど多くなることで、本当に大学受験に通用するような高校生に繋げられるような学力が身に着くのかも大変疑問です。

茨城県教育委員会に望むこと

私が、入試制度を管轄する茨城県教育委員会に望むことは、高校進学した後も生きるような学力を測ることができる入試問題にしてほしいという点です。入試に向けてきちんと努力をした生徒が、高校の授業でも困ることが無いように、また大学進学を考えた時にも、大学受験にもつながるような視点で、問題作成をお願いしたいのです。
 今一度、「誰のための、何のための」入試なのかを考えてください。そして採点に携わる高校の先生方の意見はもちろん、中学校での実際の指導内容を受けて一から入試問題や入試制度改革にあたってほしいと願います。
 さらに、可能な限りその議論や決定事項は情報公開されることも併せてお願いしたいと思います。

まとめ

 今回は私の「怒り」に近い感情をもとに書かせていただきました。やっぱりちゃんと準備した生徒がかわいそうです。
慶伸塾では来年度の入試がどう転んでも良いように対策を行います。記述問題、作図問題、英作文。一問一答形式、記号選択式の何が来ても動じない学力をつけられるように、教材を準備したり、予習をしたりする所存です。

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